■Northern Dancer系
一年間のJRA重賞・ダートグレード競走勝ち馬をまとめたのが上記の父系図。種牡馬単体ではなく、父系図で見ることにより、“父系の勢い”が一目で理解できるし、“この世代の〜産駒は当たり年”“この父系にはこの母の父が合うのか”といったことも非常にわかりやすくなっている。
さらに、過去の父系図と見比べれば、日本の種牡馬・血統の歴史の移り変わりもよくわかる。いずれ公開したいと思っているが、すでに1970年代の父系図も作成済み。現在と比べるとNorthern Dancer系もTurn-to系は皆無で、チャイナロックなどを擁するHampton系、ヒンドスタンなどを擁するSt.Simon系が一大勢力を築き上げていたりする。その時代の活躍馬を“父系図で見る”というのは、いろいろなことを気づかせてくれるのだ。皆さんもこれを見て、何か新しいことに気づいたり、新たな興味を持っていただけると嬉しく思う。
それでは、各系統を簡単に解説していきたい。
■Northern Dancer系
重賞勝ち馬は昨年の14頭から18頭に増加。G1馬も4頭から7頭に増えており内容も濃い。ただ、ダート、短距離といったスペシャリストが多いのが特徴で、クラシックホースは2008年桜花賞のレジネッタ以降出ていない。“母の父SS系”相手にクラシック級を続出できるような種牡馬の出現が待たれる。また、思えばNijinsky系は5年連続でJRA重賞勝ち馬を出していない。
Danzig系ではサマリーズを出したHard Spunが、新たに日本のG1サイアーの仲間入り。Danzig晩年の活躍馬で、同じDanzigの孫世代のチーフベアハートと17歳差というのはギャップを感じてしまうが、Danzigの遺伝力の強さを表しているということだ。
Sadler's Wells系からはローエングリン産駒ロゴタイプが朝日杯FSを制覇。Sadler's Wells系のJRA2歳G1勝ちは1996年にロゴタイプの父系祖父SingspielがSadler's Wells系として初めてJRA重賞(ジャパンC)を制して以来初のことであった。
ファルブラヴは産駒デビュー6年目にして初めて、牝馬以外の重賞勝ち馬トランスワープが出たが、同馬はセン馬。いまだに、牡馬の重賞勝ち馬は出ていない。ここまで牝馬に偏る種牡馬というのも珍しいだろう。
■Native Dancer系
系統全体では27頭→29頭と、前年比2頭増加。輸入されたエンパイアメーカー産駒の持込馬、外国産馬から2頭の重賞勝ち馬が出た。2014年の輸入後産駒デビュー後はさらに注目を集めそうだ。
ケイムホーム、Tamayuz、スターリングローズが本邦重賞初制覇。ケイムホームは佐賀でも快足馬ガルホームが出ており、うまくハマれば一流スプリンターを出せそうなポテンシャルを持っている。Tamayuzはマイネルエテルネルが世界初の重賞勝ち馬。7戦5勝と底を見せず、NatagoraやRaven's Pass相手にG1・2勝を挙げた一流マイラーだ。ダートG1馬スターリングローズは意外にも芝で重賞制覇。地方では福山のクーヨシンやフレアリングマリーなどを出している。
リーディングサイアーの座を奪われたキングカメハメハは重賞勝ち馬が10頭から14頭に増加し、G1は中央・地方・海外合わせて4勝と、内容は前年を上回るものだった。ここ2年連続、春のクラシック戦線の重賞勝ちがないので、今年はその分野で活躍馬を出したいところだ。
ウォーエンブレムは08年秋華賞のブラックエンブレム以来、ローブティサージュが2頭目のG1勝ち馬となった。種付けに難がある馬で、この世代は過去最高の44頭が血統登録されたが、翌年の現2歳は4頭とまた極端に減少している。
■Turn-to系
Devil's Bag系ではタイキシャトルが9年ぶりにJRAで50勝に届かず(39勝)、3年ぶりに重賞勝ち馬なしと落ち込んだが、ロージズインメイが重賞初制覇。G1でもコスモオオゾラが皐月賞4着、ドリームバレンチノがスプリンターズS3着、ジェネラルグラントが全日本2歳優駿2着とまずまずの走りを見せた。かなり高く再評価されそうだ。
サンデーサイレンス系では、アドマイヤベガが産駒デビューから続けていたJRA重賞勝ちが8年でストップ。2004年に死亡し、最終世代が開け8歳なだけに仕方ないが、母の父としてニホンピロアワーズを出しており、今後はBMSとして注目だ。
ステイゴールドは7頭でJRA重賞13勝と自己最高の数字を記録。平地重賞はいずれも1800m以上と、中長距離に偏った成績になっている。リーディングベスト3位に入る種牡馬でこういった偏りを見せるのは珍しい。
スペシャルウィークは牡馬で初のG1級となったゴルトブリッツが急死してしまったが、その年のうちにローマンレジェンドがまたもやダートでG1勝ち。今年の更なる活躍や種牡馬入りも期待される。
新たにG1サイアーとなったミスキャストは、2012年の産駒の出走もビートブラック含め2頭。アーニングインデックスは、ランキング100位以内の種牡馬(ミスキャストは75位)で唯一2桁となる12.93という高い数字となった。
3世代だけでリーディングを獲得したディープインパクトは8頭で8勝だった重賞勝ちが、12頭で18勝と大幅増加。ただ、複数重賞勝ちはジェンティルドンナのみで、ジェンティルドンナを除くと秋の重賞勝ちは無しと、年間通じてコンスタントに活躍したわけではなかった。有力馬の故障なども影響したが、今年はこのあたりが課題になる。
シンボリクリスエスは2年続けて2歳重賞勝ち馬を出したが、3歳重賞は2年連続未勝利。エピファネイアの走りに、自身の評価が大きく影響されそうだ。
エリザベス女王杯のレインボーダリアを出したブライアンズタイムは2010年ユニコーンS(バーディバーディ)以来のJRA重賞勝ち、2008年弥生賞(マイネルチャールズ)以来の芝重賞勝ち、2007年皐月賞(ヴィクトリー)以来のJRAG1となった。現3歳54頭、2歳62頭とまだまだ多くの産駒を送り出しており、再び大物の出現があるかもしれない。
■Nasrullah系・その他の父系
Nasrullah系は重賞勝ち馬10頭から8頭に、G1勝ち馬も4頭から1頭に減少したが、Bold Ruler系Tapit産駒テスタマッタが、1999年NHKマイルCのシンボリインディ(父A.P.Indy)以来13年ぶりのJRA・GI勝利を飾った。
マジンプロスパーが重賞2勝を挙げたアドマイヤコジーンは、2007年スプリンターズSなど重賞4勝のアストンマーチャン以来、5年ぶり2頭目のJRA重賞勝ち馬となった。
この系統の重賞勝ち馬はいずれも4歳以上。今年は新しい世代の活躍馬の誕生が待たれる。これでBlushing Groom系は2年連続、Never Bend系は3年連続、日本で重賞勝ち馬が出ていないことになる。
その他の系統は、ワイルドラッシュ産駒ティアップワイルドが暮れの兵庫ゴールドTを勝ったのみ。「その他」といってもNorthern Dancerの父Nearctic系でNearcoに遡る父系なので、Native Dancer以外はすべて同じNearco系ということになる。
このように、大きく分けると5系統にまとまってしまう2012年の日本重賞勝ち馬。例えば30年前の1982年はNorthern Dancer、Turn-to、Native Dancer、Nasrullah、Nearco、Hampton、Tourbillon、St.Simon、Phalaris、Teddy、Blandford、Hurry On、Bend Or、Man o'Warと、重賞の数が現在より少なかったにもかかわらず14系統と多彩な顔ぶれだったので、現在の血統地図の偏りぶりがよくわかる。だからといって“血統の袋小路”が起きる危険性は低いと思うが、“血統屋”としてはもっといろいろな系統の活躍馬が出てきてくれたほうが面白い。せめてTourbillon系、Man o'War系、Damascus系、Ribot系くらいはコンスタントに活躍馬を送りだしてほしいところだが、なかなか難しいのが現状である。